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あけましておめでとうございます。

 

本年もこのように新年のご挨拶をつつがなく申し上げられますこと、なによりも皆様のお蔭と感謝致します。

 会報この号には昨1990年6月から10月までの催物の記録が収められています。時代の刻印として、どのイベントも重さは同じであり、つい一項目あたりのことばが長くなってしまいました。この時代への私なりの思い入れが、少なからず反映しているものと思われます。

「刻むいのちのときどきを/歴史の糸にあざないて」

 これは故吉川幸次郎氏が遺された数少ない日本語の詩の一節ですが、この一年はこのことばがいつも側にあったような気が致します。昨年ほど、歴史には係わりのないようにみえた小さな個人が、否も応もなく歴史の渦に巻き込まれた、巻き込まれようとした年もなかったでしょう。

 昭和の全史は「欲望の王国・日本」として、私には浮かびあがってきます。軍事力を王として、あるいは経済力を君主として、昭和の日本人は盲目的に仕えてきたのです。繁栄が魂に支えられていないから空虚であり、泡がしぼむと瞬時にバブルマネーはついえました。

文化・芸術も同じことがいえそうです。まごころから出たものはまごころによって受けられ、受けつがれます。それしかない。それしかのこらない。

幸いにも昨年サロンは、出演者にもお客様にも恵まれました。今年もきっとそうでしょう。かわらず、本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

 

 

 

教養サロン 村山リウ

 

「源氏物語つれづれに」

 

 

お迎えにあがり、講座がおわればお送りさせて頂く、といったことが、サロンの創立当初から続いて4年目を迎えようとしています。サロンはお宅からほぼまっすぐ南へ下った場所にあり、ゆくもかえるも車ではわずか5分の距離。まあほとんど庭先なのですが、その間にわずかに交わされる会話にふと先生の真情がのぞきます。

「私はこれ(源氏物語を語ってきたこと)を、ついに職業にしなかったからここまで一途に来れた」ということばには、海とひろがる人生への感謝と、米寿を迎えられたみずからのいのちへの祝福が感じられました。社会の仕組みのもたらす価値の体系から一切離れて、先生は女であり妻であり、そして自由でした。創造的な思想を生みだすのは、自由な場に在りつづける人間にだけできることです。

驚くべきは耳傾ける人を前にしたときのお元気さ。世の紙の無駄遣いの風潮をなげかれる声には激しい怒りがこもり、それはもちろん物へのやさしさに裏打ちされているのです。

 

 

 

 茶花を愛でる会 加藤淡斎

 

「花に遊ぶ」

 

淡斎先生の著書「茶花」(淡斎会、平成元年七月初版)には、山野の草花のもっとも美しい姿を撮影するために数年をついやした膨大な枚数の写真をはじめ、先生ご自身による季節の花入れの写真などで構成されています。この本のなかには傾聴すべきことばがあちこちに陽を浴びる朝露のようにきらめいています。

「季節に違わず、色取りを見せる草花。或は群れて、或はひっそり立ち。その何れもが、つつましやかに花時を愉しんでいる。林に分け入って草花に出会う時、その清麗さと醇美さに圧倒される。/出来得るならば、出会いの尊崇さと自然に咲く草花のそのままの姿を茶人に観て欲しい。茶花を入れる心は、唯一そこにある。」

草花が人を磨く。気品ということばが思い浮かびます。おもての淡斎先生のご様子はほとんど天衣無縫な明るさに充ちていて、自在です。「千利休は『花は野にあるように』と言ったが、これには大きな意味を含んでいる。」と別の所で書いておられます。道の歩き方について、あるいは人の生き方について示唆しておられるのです。

 

今年も淡斎先生の花入れによる「草花と陶芸の出会展」が開かれました。昨年に続き第二回目です。1990.7.10-12。出品作家の先生方は、淡斎先生のお呼びかけに応えられた28名。

 

 

 

 舞踏会 岩永弘

 

社交ダンスを楽しむ人が増えています。はげしいディスコダンスは、そういつまでも踊れるものではありませんが、ブルース、ワルツ、ジルバなどは80歳になっても90歳になっても踊れます。若いステップはまことに軽やかで気持ちのいいものですが、年配の方どうしのダンスも美しい。青春が束の間の夢ではなく、相手とリズムを共にすることにより、自分がひとりではないこと、その楽しみは分かちあうべきことを無心に現わされています。この心を愛と呼ぶこともできます。だから、ダンスをたしなまれる方は優しい方ばかりです。

ワンポイントレッスンを会のはじめにしてくださる岩永先生は、ユーモアに満ちたおだやかなお人柄。一日の半分はダンスの研鑚についやされています。

 

 

 

カクテルコンサート くつわともこと共に…   1990.6.2

 

くつわともこ(シャンソン)

 

企画/くつわともこ

 

 

芦屋出身、在住の若手シャンソン歌手、くつわともこ氏の気迫あふれるコンサートでした。「そして今は」「詩人の魂」「私の心はヴィオロン」など比較的ポピュラーなナンバーが並び、オードブル、ワインを伴って、ファンの皆樣にはこたえられない土曜日のひとときでした。

 

 

 

ETWAS NEUES Z   1990.6.8

 

斎木隆・斎木ユリ(ピアノソロ、連弾、デュオ)

+ 三善晃(作曲、お話、ピアノ)

 

三善晃:こどものためのピアノ曲集「音の森」から

:こどものピアノ小品集「海の日記帳」から

:ピアノ連弾組曲「音の手帳」

:2台のピアノの為の「唱歌の四季」など

 

企画/鬼塚正勝

 

 

三善晃氏日本芸術院賞受賞をお祝いしてのコンサート。駆けつけて下さったゲストの方々、藤原真理(チェロ)、坂口茉里(ソプラノ)三室尭(バリトン)、大友直人(ピアノ)、清水大貴(ヴァイオリン)、清水和音(ピアノ)、エコ・エレガンテ(合唱)、日下部吉彦(司会・お話)、の諸氏が大きく盛り上げて下さいました。斎木隆氏は芦屋市出身ということで、氏自身にとっても思い出深いコンサートになったことでしょう。

三善氏の印象について書いておかずにいられません。やせて、小柄で、きりつめられた存在が、やや傾いて立っておられる姿は美しく、眼差しの鉱物を思わせる輝きとともに、あざやかな「典型」を感じたものでした。打ち上げでは桐朋出身の若い音楽家たちの愉快にして真摯な語らいに、いまなお、故斎藤秀雄氏の名を聞いたことが心に残りました。          

               

 

 

ジャズ・デュオ・コンサート   1990.6.13

 

ショー・ルルフ(サックス) フィル・ストレンジ(ピアノ)

 

企画/甲陽音楽院 菅内孝憲

 

ルルフ氏は1984年からイリノイ大学助教授。カーネギーホールをはじめ全米各地でソロリサイタル。数々の賞を獲得している。ストレンジ氏は1984-88年、アリゾナ大学講師。クラシックもよくし、グリークやプロコフィエフの協奏曲をテンペ交響楽団と共演。ジャズでは「フィル・ストレンジ・カルテット」を結成し数々の賞を受賞。

洗練された、清潔なジャズでした。反語ではなく、なるほどそうか、と感心致しました。アメリカはジャズを義務教育から学校教育にとりあげるすばらしい国です。ジャズ・フリークたちが彼らの演奏をどう評価するのかは知りません。ただ、それは音楽としては、いささかの歪みもない優れたものだったことは書いておきたいと思います。

        

      

 

シャンソンライヴ 石川功とEMEの仲間たち

 

16回 1990.6.14

17回 1990.8.9

18回 1990.10.11

 

企画/オフィスEME

 

       

シャンソンとは生身の人間の歌であり、生身をつらぬくかぎり、歌い手の芸に円満な成熟はあり得ない。石川氏の歌唱には、いつだってぎりぎりに突きつめられた、歌う個人が立ちあがります。芳醇な詩魂、たくまざる人間味、キャリアの深さなどがそれを支え、ふっと力を抜いた歌にも抜群のたのしさが覗きます。偶数月の、いつしか偶数月の名物のようになって参りましたのも故なきことではありません。

 

 

 

河野保人 ツィター演奏会   1990.7.21

 

河野保人(ツィター)

 

ノクターン(山小屋の優しい風)、チロルのセレナーデ

「ルネッサンス舞曲集」より真珠の木・聖なる森

ヨハン大公、カプリース(そよ風)、花時計

ギャロップ(いたずら妖精)

 

企画/黒田百合子

 

 

 河野保人氏は1932年宮崎県生れ。28歳のとき渡欧し、すでに30年以上ツィターとともに歩み、いまや世界で一・二をあらそうツィター演奏家として、日本及びヨーロッパで活躍されています。ツィター収集家としても、各種タイプ54台を所蔵され、その多くが特注品です。この楽器の本場であるオーストリア、ドイツなどでは本格的な生演奏を聴くことがほとんど不可能になってしまった今、ヨーロッパの国々から氏へたえず演奏の招きがあり、かつ永住の誘いすらある、ということです。

これは、とてもおもしろいことです。伝統芸術の発展と衰退と復活について、示唆深い事例です。ツィターの魅力はなつかしい音色にあり、響きを揺らしながら、空間にときには陽気な踊り、ときには思いのたけを告白するはげしさをみなぎらせます。意外に深いバスも出せる楽器なのです。

 

民族楽器の会では、他に「芦屋ユネスコーレディス・セミナー・ハウス」で1990.6.19で、イランのサンドゥールという古典楽器が、プーリー・アナビアン氏によって紹介されました。大正琴に音色が似た横置きの打弦楽器。イランにはイランの音階と旋法があります。

 

 

 

CHAMBER CONCERT 二重奏の夕べ   1990.8.24

 

平岡陽子(ヴァイオリン) 市東信子(ピアノ)

 

ベートーヴェン:ソナタ「アレキサンダー」ハ短調  

ラヴェル:ピアノとヴァイオリンのためのソナタ  

ドビュッシー:ソナタ  

シューベルト:幻想曲 D.934

 

企画/平岡陽子

 

 

平岡陽子氏は東京芸術大学卒業、東京ハルモニア室内オーケストラのメンバー。市東信子氏は桐朋学園大学卒業、現在桐朋学園「子供のための音楽教室」講師。

両氏の渡欧にそなえたコンサート。はばたこうとする翼の力をみずから信じる若さの演奏。直後に出場したミュンヘン国際コンクール(デュオ部門)では第2次予選まで通過という実績を残されました。このコンクールは、課題がこの夜の諸曲を含めて9曲というレベルの高さです。今後のますますの活躍を期待します。

 

 

 

田中園子故郷へ帰る   1990.9.1

 

田中園子(ピアノ) 金昌国(ゲスト/フルート) 

林俊昭(チェロ)

 

J.S.バッハ:フランス組曲 第6番                         

ショパン:即興曲 Op.29Op.36Op.51

:幻想即興曲 Op.66  

:ワルツ 第9番、14番、5番 

マルティヌー:フルート、チェロ、ピアノのためのトリオ

 

 

田中園子氏は兵庫県立第一高女卒業後、1938年に音楽コンクール第一位、新響(現N響)とのコンチェルトや斎藤秀雄氏との共演などに活躍。戦後は木琴の平岡養一と国内と海外で演奏旅行。ヴァイオリンの諏訪根自子氏のパートナーでもありました。

人が日を重ね、年をかさねていくこと。美しく年輪を刻んだ、かろやかな自由さに音楽は息づいていました。バッハもショパンもマルティヌーも、すべてに無理がなく、造型は確かであり、そこにはただ祝福がながれていました。故郷のお客様は女学校時代の同窓生も多く、田中園子氏がピアノをもって語りたかったことも、たったひとつだったと思われます。

 

マルティヌーのトリオに金昌国、林俊昭両氏をお迎えできたことも喜びでした。この曲ははじめて聴きましたが、非常に美しい音楽です。終演後、林氏に「マルティヌー、きれいな音楽でした」とお伝えしたところ、ほとんど瞬時に「マルティヌー生誕100年記念コンサート」をやろう、ということになりました。まるで「ひょうたんから駒」でしたが、こんなこともあり、いよいよこのコンサートは思い出深いものとなりました。

 

 

 

 ピエール-イヴ・アルトー フルートリサイタル   1990.9.5

 

ピエール-イヴ・アルトー(フルート)  久保洋子(ピアノ)

 

プーランク:ソナタ(1956) 

武満徹:ヴォイス(1971) 

久保洋子:ヴェルヴ(1990, 初演) 

近藤圭:非形(1990, 初演)

マリー・ヴィドール:組曲 Op.341898

 

企画/久保洋子現代音楽研究所

 

ピエール-イヴ・アルトーは1946年パリに生れたフルーティスト。古典から現代音楽の演奏活動を行なっているが、多くの同時代の作曲家が彼のために曲を書いている。アルトーはフルート族のすべての楽器をこなし、最少のピコレットから、彼のために開発されたオクトパスフルート、ダブルベースフルートにまで及ぶ。 1981年からIRCAMで器楽研究ワークショップのチーフディレクター、1982年からはダルムシュタット国際夏季現代音楽講座の常任教授。著書もレコードも多い。現在、パリ国立高等音楽院教授、ブーローニュ国立音楽院教授。

  久保洋子氏は昨年末にブーレーズ、メシアン、自作をならべたピアノリサイタルを開かれ、当夜が2度目の出演となりました。イヴ・アルトー氏はひげもじゃの巨漢であり、笑うとまことに人なつっこい優しい目が覗き、その演奏には、目のさめるような技術の冴えと、すばらしく斬れる音感があります。パリジャンらしい小粋さについても書いておくべきでしょう。久保洋子氏の「ヴェルヴ」はのびやかに閃きつづける美しい音の連続と非連続。彼女の師、近藤圭氏の「非形」は、書くべきことをこのように書く、という気力に貫かれた強固な音楽。

 

 

 

 ヴィラ=ロボス フェスティバル   1990.9.23

 

垣花洋子(ソプラノ) 白井満智子(ピアノ、チェレスタ) 

兵頭伸二(アルトサックス) 福田淳(オーボエ) 

野田千晶(ハープ) 雨田一孝、植松恵子、大澤明、高橋宏明

田中次郎、永山みさ、日野俊介、山岸孝教(以上チェロ)

吉岡美恵子(フルート) 弘井俊雄(ギター)

濱田滋郎(監修・司会)

 

ヴィラ=ロボス:ジェット・ホイッスル 

:ブラジル風バッハ 第4番より「前奏曲」

:シクロ・ブラジレイロより「印象的な吟遊詩人」

「奥地の祭り」「白いインディオの踊り」 

:神秘的六重奏曲 

:前奏曲集第3番  

:ブラジル民衆音楽組曲より

「ショティシュ=ショーロ」「ワルツ=ショーロ」

:ショーロ第1番 ブラジル風バッハ第5番

 

ギターの弘井俊雄氏と、てんやわんやの大騒動をくりひろげながら、この音楽会をつくりあげました。これだけの出演者数があるコンサートです。どうにもならないような難関が立ちはだかるたびに、私たちはむしろ馬鹿話をして笑いました。笑っている間にものごとは成るように収まっていき、当日にはみごとヴィラ=ロボスに結集した音楽家たちの心と心が響きあう、熱いステージとなったのでした。

白井満智子氏のピアノを知りえたことは幸せでした。打ち込みの厳しさと激しさが強靭な音楽を生みだします。垣花洋子氏もオペラで活躍する実力派。舞台の上に花が咲き、独特の雰囲気かかもし出されました。吉岡美恵子氏は前に一度、弘井氏とのデュオでサロンに出演されました。元気のいいフルートです。弘井俊雄氏のヴィラ=ロボスといったら、これは極めつき。管、弦の諸氏にもご協力を謝します。

そして、今回も濱田滋郎氏にひとかたならぬお世話をいただきました。よどみなく鋭い指摘をもって短時間のなかにヴィラ=ロボスを語りきられる、練達のお話。

 

 

 

ETWAS NEUES [ 崎本譲 + ハーモニカ   1990.10.6

 

崎本譲(ハーモニカ) 寺嶋陸也(ピアノ) 仁禮義子(ソプラノ)

 

トミー・ライリー:セレナーデ 

J.S.バッハ:ソナタ ト短調 BWV 1021

ジェイコブ:ハーモニカとピアノの為の5つの小品 

八村義夫:彼岸花の幻想 

河野敦朗:ハーモニカソロの為のRIM 

ヴィラ=ロボス:黒島の歌、ブラジル風バッハ 第5番  

四季の歌、早春賦(中田章)、海(文部省唱歌)

赤とんぼ(山田耕筰)、冬景色(文部省唱歌)

 

企画/鬼塚正勝

 

 

みかけは小さくともハーモニカは偉大な楽器です。他の楽器とおなじく、存在をぶつけて奏でられれば人間の歌がほとばしり出ます。崎元譲氏の演奏には以前、三宅榛名氏の「ポエム・ハーモニカ」「トゥーレ幻想曲」に唖然としたことがあります。凛烈な詩情が一本のハーモニカに爆発し、その場から離れたくないほどの、ものすごい懐かしさに包まれました。この夜のプログラムは上記のように多彩なもの。J.S.バッハから唱歌に至る諸曲を豊かな表現力をもって吹かれました。ハーモニカは、吹いて、吸う。文字通り呼吸の楽器です。いろいろな種類のハーモニカについてお話を伺えたのも楽しい時間でした。

ピアノの寺嶋陸也氏の「彼岸花の幻想」は、故八村義夫氏のつきつめた狂気を緻密に美しく再現した演奏。ソプラノの仁禮義子氏は豊かな声量をもった大きなヴィラ=ロボス。九州在住の作曲家、河野敦朗氏も会場に駆け付けられ、自作にじっと耳を傾けておられました。

 

 

 

「ハラウィ」―愛と死の歌―   1990.10.25

 

奈良ゆみ(ソプラノ)  久保洋子(ピアノ)

 

オリヴィエ・メシアン作詩/作曲「ハラウィ」一愛と死の歌一

 

主催/久保洋子現代音楽研究所

 

 

フランスの作曲家メシアンは1945年にこの作品を創り、翌1946年マルセル・ブンレのソプラノと作曲者のピアノにより初演された。「ハラウィ」とはスペイン支配までペルーで話された古語であるケチュアのことばで、恋人たちの死という結末におわる伝統的なペルーの愛と死の歌を意味している。ヴァーグナーの「トリスタンとイゾルデ」を熱愛していたメシアンは、この曲と「トゥランガリラ交響曲」、「5つのルシャン」を、「私の3つのトリスタンとイゾルデ」と呼んでいた。

奈良ゆみ氏はサティとヴァイルの一夜についで2度目のステージ。生と死に直接向きあい、深い淵から愛を呼び交わす「ハラウィ」は、彼女ならではの、はげしい表出性をもって歌われないと音楽になりません。真の意味で一点において生と死に向き合えるのは男でなく女の方であり、彼女ほど強烈に女性を感じさせるソプラノも稀だからです。

久保洋子氏はアナリーゼをメシアンに師事したことがあり、作曲家のピアノらしい、構造を明らかにする眼を感じさせつつ、伴奏ではなくアンサンブルの一対としてのピアノパートを奏でられました。

 

 

 

ミヒャエル・バッハ チェロ・リサイタル   1990.10.30

 

ミヒャエル・バッハ(チェロ)  久保洋子(ピアノ)

 

J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲 第2番(1720頃)

ツィンマーマン:四つの短い習作(1970

ヴェーベルン:三つの小品 Op.111914

近藤圭:増殖する浮遊音(1990, 初演)

久保洋子:フルーヴ(1990, 初演)

武満徹:犁<Orion>(1984

 

主催/久保洋子現代音楽研究所

 

 

ミヒャエル・バッハはドイツ、ヴォルムス近郊のヴェストホーフェンに生れる。シュタルケル、フルニエに師事。フルニエはチェロの銘器(ジョバンニ・パウロ・マギーニ 1600年製)を譲り受けた。幅広いレパートリーを持つバッハには彼のために作られた曲も多く、どんな困難な曲でも弾きこなす演奏者として画期的な存在となっている。

J.S.バッハで目を引いたのは半月状に弧を描いた独特のボウ(弓)で、楽器の4本の弦を同時に鳴らすことができ、従来どうしてもアルペジオ的に弾かれていた厚い和音が美しい和音として音化されたのです。 M.バッハ氏によると、この弓の形そのものは故アルバート・シュヴァイツァー博土が古いバッハの本によって記録しているとのこと。弓の張力を調節する機構をつけて現代に復活させたのは、M.バッハその人なのです。もちろん特注品で、まだどの楽器店にも置いていません。「ジョン・ケージがこの弓のためにコンチェルトを書いてくれるんだ」と少年のような眼差しで語っていました。

近藤圭氏の新作はチェロの音域と音色を生かした、気骨ある男子の音楽。「私は四国の海をみながら育ちました。だからこのような音楽になるんです」と終演後述懐されました。久保洋子氏の新作は早書きの光るセンスの流露。ほか、ヴェーベルンの音の佇まいの美しさは、やはりたいへんなものだと感じました。

 

■邦楽の会から

 

 

今藤長之と常磐津小清のこんせーる双樹その2   1990.7.14

ー愛ゆえの狂乱二題ー

 

「吹風狂春秋」 

 

長唄/戝機帯(しずはたおび) 常磐津/お夏狂乱

助演者/芳村伊十七、杵屋禄三、今藤美治郎、稀音屋祐介

常磐津一巴太夫、常磐津小欣司、常磐津都喜蔵

 

主催/今藤長之、常磐津小清

監修/籠城正明

後援/月刊神戸っ子

 

 

第二回目の長唄と常磐津のジョイントコンサート。同志社大学助教授龍城氏の解説も微に入り細をうがった、博雅の士らしいお話。名人たちの至芸は大向うを唸らせ、酔わせました。

 

この他、おさらい会、浴衣会として以下の会が催され、それぞれに楽しい一日を過ごされました。

 

 

藤井観謳会 浴衣会   1990 .7.8

 

観世流藤井久雄門下の皆様

 

 

 

夏の歌仙会   1990.8.11

 

勝部松美会

観世流勝部延和門下の皆様

 

 

笛を楽しむ練習会 練習会  1990.8.19

 

吟風会

野口浩和門下の皆様

 

 

 

 

■講座から

 

 

古代歴史探索「韓国と日本」   1990.3.8

 

近畿大学講師 鄭早苗

 

NHK学園共催「一日講座」を、近辺の気鋭の先生をお招きして最新の学問事情をお聞きしようと、いくつか開催致しました。本来ならば「会報前期」に掲載すればよかったのですが、紙面の都合上こちらに記録しておきます。

1989.11.13、「古文書に見る浪花の裁判」神戸大学助教授曾根ひろみ氏。社会史はどこまでも、有名無名を問わぬ生きた個人の具体的な記録によって、その集積の質量をもって、現代の世に問うべきものとなります。細部をきわめていくことがおもしろい。その時代の豊かなひろがりを持った人間の世界が反映されていないはずがないからです。

1989.12.5、「漢方と健康」近畿大学東洋医学研究所助教授 阿部博子氏。医学にも東と西。現代までの西洋医学の発達には驚くべきものがあります。一方、漢方にも伝統に根ざしたいわば底力を感じます。最近では「気功」が中国で大流行し、日本にも上陸。人体は臓器や器官の集まりには違いありませんが、部分だけが自立しているわけではありません。数々の病気の撲滅に人類は成功を収めてきました。漢方も、西洋医学ともども、さらに遥かな道のりを歩んでいくことでしょう。

 

「韓国と日本」近畿大学講師鄭早苗氏。在日二世の鄭早苗氏は大阪生れの若い学者です。日本と韓国はもっとも近い隣国どうしであるばかりでなく、歴史や文化の上でも深く係わりあってきました。古代日本と新羅、百済との交流はとくに密接なものがありました。昔からのいわゆる歴史書が、あまりあてにならないことは、歴史に興味がある人ならだれでも知っています。日韓の学者たちの力をあわせた究明に、近い将来正しい歴史が記されることとなるでしょう。アジア全体としては、もちろんインドや中国の厳密な史家の協力が不可欠ですが、各国の歴史家が真理を求めてやまないかぎり、いずれアジアはアジアにたちかえります。

それはそれとして、歴史をほんとうにつくっていくのは私たち個人です。隣国はじめ諸外国との友好を論じるならば、身近にいる外国人とのつきあい方が親しいかどうか。戦後の憲法で内外に宣言した非戦国家であるかぎり、「たたかわず」をつらぬいて平和であるのかどうか。

 

 

 

「日本人と宗教」山折哲雄   1990.10.19

 

朝日カルチャーセンター芦屋教室 特別1日公開講座

 

 

朝日カルチャー芦屋の公開講座が春、夏、秋と開催されました。これも「前期」分を含みます。

1990.4 .24、「千利休自刃の謎」国際日本文化研究センター教授村井康彦氏。千利休没後400年を記念しての講座。日本古代・中世の社会と文化を京都大学で専攻された村井氏は、茶道史にも造詣が深い先生です。秀吉の怒りにふれて千利休は自刃しました。さて、公表された罪状が賜死の理由のすべてであったかどうか。さまざまに推測される利休自刃の背景を探りながら、彼のめざした茶とは何であったかが、縦横に語られました。

1990.7 .31、「美術の起源」大阪大学名誉教授木村重信氏。京都大学で美術史と民族芸術学を専攻。85年、阪大南太平洋学術調査団のリーダーとしてイースター島を調査し、巨石人像はアジアが起源と結論づける。原始美術研究の大家であり、美術評論家としても活躍。人間はなぜ絵を描き彫刻をつくるのか。ホモ・サピエンスが地上に現われたとき行為としての美術が始まったわけですが、その実相を貴重なスライド映写とともに講義されました。芸術にはその時代から、人間的および社会的な機能があったのです。

 

「日本人と宗教」国際日本文化研究センター教授山折哲雄氏。サンフランシスコ生れ。宗教学・思想史を東北大学で専攻され、日本人の宗教意識や精神構造を幅広い視野で追求されています。独自に、と急いでつけくわえておきたいのは、われわれ凡人には到底読みこなせない内外の膨大な文献を読破されながら、なお山折氏は路上におられるからです。たとえば山折氏は下世話の事情にすごく詳しい。美空ひばりの大ファンであり、駅売り夕刊紙に目を通されもし、かつはF1ドライバーのアイルトン・セナの「走っていると神を感じることがある」ということばに興味を寄せられ、「そうなんですよね。日本の神々は超高速で移動されるんです」と講義が進みました。この態度は、むしろ強靭な思想家のものです。書かれた本にはどれにも分析整理におわらない創造が輝いています。講座では、山岳信仰、浄土観、遺骨信仰の3点を中心にして日本人の神仏信仰の特徴を明らかにされました。

 

 

 

 

 

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1991 1 1 発行

著 者 山村 雅治

発行者 山村 雅治

発行所 山村サロン

 

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